肝芽腫の初回治療として、手術をせず、放射線治療だけで治療することは通常ありません。しかし放射線治療は病状に応じて適切な時期に、適切な量を、適切な範囲に用いれば優れた治療効果をあげられる強い味方です。 肝芽腫を含め、小児腫瘍は一般的に放射線治療がよく効きます。したがって大量の放射線を必要とせず、副作用も比較的少なくてすむことが多いのです。現在では臓器別に耐容線量(臓器の副作用を起こさずに照射できる最大の放射線量)がほぼ明らかにされており、この量以上の放射線をかけることはめったにありません。放射線治療の機械の精度(正確さ)も進歩しているので、一般的に放射線治療による重篤な副作用が起こる可能性は低くなっています。 この項に記載してある副作用も、照射範囲と量によって起こる確率が変わります。すべての人に起こるものではなく、「最も重いものが記載されている」とお考え下さい。 「放射線は怖い」というイメージがあるかと思いますが、主治医から放射線治療を勧められたら、効果と副作用について放射線治療専門医の話をよく聞いてください。そして、ご理解されたら安心して治療を受けてください。 大村素子(放射線治療専門医。湘南鎌倉総合病院放射線腫瘍科部長。神奈川県立こども医療センター放射線科非常勤医師) |
1. | 放射線だけで治療しない理由 |
2. | 放射線治療が必要な状態とは? |
3. | 放射線治療が出来ない場合 |
4. | 実際の手順・実際の期間・照射する放射線量 |
5. | 特殊な放射線治療について |
1.放射線だけで治療しない理由 |
肝芽腫の場合、肝臓の広い範囲に多くの放射線が照射されると、肝臓の働きが悪くなるという副作用が起こることがあります。また、肝臓の近くにある腸に一定量以上の放射線が照射されると、治療が終了して数ヶ月から数年後に後述のような腸管へのダメージが起こることがあります。したがって現時点では放射線治療だけで肝芽腫を治療するということはなく、まず手術と化学療法が選択されます。 |
2.放射線治療が必要な状態とは? |
初回の手術との組み合わせとして | |
初回の治療では手術と化学療法が原則で、ごく一部の症例を除いて放射線治療は使いません。 |
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転移・再発の場合 | |
局所再発といって、もともと腫瘍があった場所から肝芽腫が再発する場合、あるいは遠隔転移といって肝臓以外の別の臓器に肝芽腫が再発する場合があります。化学療法の効果がない場合、手術が難しい場合、放射線治療が選択されることがあります。 |
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腹部の再発 | |
肝臓、腹膜、腹壁、横隔膜などの腹部に再発した場合で、一定の範囲に固まりとして腫瘍が出来ている時は、放射線治療と手術との組み合わせ、あるいは放射線治療のみを行うことは可能です。しかし腫瘍が肝臓や腹膜に小さな粒になって散らばっているような場合は、範囲が広すぎるので、放射線治療は適切ではありません。 |
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腹部に照射した時の副作用 | |
腹部の照射中には食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などが起きることがありますが、このような症状は治療が終了すれば快方に向かいます。 治療が終了したあと数ヶ月から数年後に、放射線による腸のダメージによって、腸閉塞や潰瘍、出血が起こることがあります。場合によっては手術が必要なことがあります。 |
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肺への転移 | |
手術で取れる場所や数ならば、まず手術を考えます。手術が難しい場合、数ヶ所までならば、特殊な放射線治療(定位放射線治療など)を用いて、腫瘍に限局した治療をすることで、手術と同じような効果をあげることも出来ます。腫瘍が多数あるような場合は、範囲が広すぎるため、放射線治療は適切ではありません。 |
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肺に照射した時の副作用 | |
治療後、放射線性肺炎を起こすことがあります。また放射線が照射された範囲の肺の機能が落ちることがあります。 |
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脳への転移 | |
脳は他の部位と異なり、腫瘍が粒状に散らばっているような場合も、全脳照射といって、脳全体に放射線治療を行うことが出来ます。また、数ヶ所までならば、特殊な放射線治療(定位放射線治療など)を用いて、腫瘍に限局した治療をすることで、手術と同じような効果を上げることも出来ます。 |
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脳に照射した時の副作用 | |
照射中は吐き気、頭痛、脱毛などの副作用がありますが、これらの症状は治療が終了すれば快方に向かいます。 しかし発達が盛んな低年齢のこどもの脳に照射をすると、脳に不可逆的な(元に戻らない)障害を与えたり、将来的に発達障害を起こすことが分かっています。化学療法との併用は、その副作用をさらに強めることが分かっています。治療によって得られる効果と障害の可能性を慎重に見極めながら治療方法をご提案します。 |
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その他への転移がある場合 | |
転移には、心臓の中や大きな静脈の中に腫瘍細胞が入り込み、固まりを作ることがあります。腫瘍塞栓といい、血の流れを塞ぐのでいろいろな症状が出現します。このような場合、放射線治療が有効なことがあります。 |
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その他の副作用 | |
成長期の骨にもある程度以上の放射線があたると、一定の確率で骨の成長が阻害されます。また放射線治療や化学療法は、将来的に別の悪性腫瘍になる確率を高めるという報告があります。 |
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症状を抑えるための治療 / 緩和的放射線治療 | |
再発や転移によって、つらい身体の症状を示すことがあります。最も多いのは、骨やその他の組織に転移、増大することによって生じる痛みです。このような場合、鎮痛剤と比べて、放射線治療は痛みの原因となっている腫瘍を直接破壊するため高い効果を示します。また化学療法と比べて副作用が少ないことも特徴です。 その他、腫瘍による出血、肺や気管の病変による呼吸困難、血管や神経が押されることによる痛みやむくみ、などさまざまなつらい症状に対して、放射線治療は高い効果があります。 |
3.放射線治療が出来ない場合 |
・ | AFPが少しずつ上昇していて再発が疑われても、どこに腫瘍があるのかCTなどの画像で分からない場合は治療が出来ません。 |
・ | 一度放射線治療をおこなった部位に対する二度目の放射線治療(再照射)については慎重に決定していきます。 |
4.実際の手順・実際の期間・照射する放射線量 |
神奈川県立こども医療センターでは以下のような手順で行っています。 |
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1. | 説 明 |
放射線治療の目的、方法、効果、副作用をご理解ご了承いただくために、主治医、放射線治療専門医から治療について説明をします。説明書と同意書に保護者のサインをいただきます。 |
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2. | 治 療 計 画 |
次に治療計画(放射線治療のための準備)を行います。通常、30分以内で終了します。放射線を照射する部位のCTを撮影し、照射の目印として、皮膚にマークを何か所かつけます。身体を固定するために、個々にお面を作ったり、特殊な枕やクッションを作ったりすることもあります。安全を保つために、太いベルトで身体の固定を行います。撮像したCT画像の上に放射線をどのように照射していくか、コンピュータを使ってデザインしていきます。完成した治療計画にしたがって、放射線をファントムという人体に見立てた装置に照射して、放射線が正しく照射されているか、計測します。 放射線の種類は、ふつうはX線です。特殊な場合として、電子線を使います。これは、体表面に入ってから、浅いところでとどまる特殊な放射線で、皮膚や身体の表面に近い部分の治療に用います。 |
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3. | 実際の治療 |
患者さんは治療計画の時と同じ体位で、治療台に横になります。治療計画の時につけたマークを目印にしながら、治療台を動かし、患者さんの身体を適切な位置に合わせます。この準備に数分の時間を要します。放射線は1方向からということは少なく、大抵は2方向以上から照射します。照射時間は1〜数分程度です。この間は患者さんは治療室で一人になりますので、ビデオカメラやマイクなどで内部の状況を観察しています。照射中は正確な照射のため、動かないことが大切です。 このため、小さいお子さんは毎日鎮静して、眠った状態で治療をします。照射中に痛みなどは感じません。鎮静せずに照射する場合、準備を含め、放射線治療室に入ってから出るまで10分程度です。放射線治療に要する時間は放射線治療の危機によって大きく異なります。 |
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4. | 治療回数と放射線の量 |
通常、一日1.5から2.0Gy(グレイ)という単位を、2方向以上にわけて毎日少しずつ照射していきます。これを月曜日から金曜日まで繰り返します。治療期間は、病状によってさまざまです。 少ない場合は数回、多い時は20回以上におよびます。治療中は「お休みしないこと」「マークを消さないこと」が大切です。とくに生活の制限はありません。放射線治療は主治医の許可があれば外来通院で出来る治療です。 |
5.特殊な放射線治療について |
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