がん治療における緩和ケアとは、病気を治すために行われる治療(手術、化学療法、放射線治療など)以外で、身体と心の苦痛を和らげる治療やケアなどを指します。 岩ア史記(神奈川県立こども医療センター血液再生医療科医長) |
1. | 緩和ケアは終末期医療と違う? |
2. | がん性疼痛(とうつう)とは? 疼痛緩和・痛みの治療とは? |
3. | 痛みの治療はいつから始める? |
4. | 痛みの治療について |
5. | 痛み止めの影響と副作用 |
6. | どんな薬を使うの? |
7. | 麻薬への不安あれこれ |
8. | 子どもにあった選択を |
9. | すでに使用経験があるかも |
10. | 緩和ケアの専門医がいない場合 |
11. | 担当の医療スタッフに相談を |
12. | おわりに |
1.緩和ケアは終末期医療と違う? |
本質的には違います。「終末期医療」「終末期ケア」は治らなくなった病気に対する治療や医療を指し、文字通り「死」を目前とした状態で行われる医療とケアを指します。 この医療やケアは緩和医療・緩和ケアに含まれるとも言えますが、緩和ケアは治療の如何にかかわらず、あらゆる苦痛に対する医療的ケアを指します。 がん治療の場面では、症状緩和(治療に伴う苦痛、嘔気、痛み、しびれなど身体症状)、こころの問題の緩和(不安、抑うつなど)、社会的問題へのかかわりなどが具体的にあげられます。 がんの緩和ケアは、がんにかかわるあらゆる苦痛を和らげることを目的とした医療およびケアと言えます。 |
2.がん性疼痛(とうつう)とは? 疼痛緩和・痛みの治療とは? |
すべてのがん患者さんには等しくがんの痛みを取り除き人間らしく生きる権利があります。それは、大人のがん患者さんたちだけでなく、子どもたちも同じです。がんに伴う痛み、「がん性疼痛」は以下のようなものに分類されます。 |
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(1) | 病気があることによる(直接的な)痛み |
(2) | 病気のために生じた障害による痛み |
(3) | 治療・検査などに伴う痛み |
(4) | 精神・心理的な問題のよる痛み |
同じ病気であってもそれぞれ症状は異なるように、「がん性疼痛」も患者さんそれぞれで複雑かつ様々です。これらの「痛み・苦痛」を「薬物療法・非薬物療法・で出来る限り取り除くことが「疼痛緩和・痛みの治療」です。 |
3.痛みの治療はいつから始める? |
痛みがある時に直ちに始められます。すぐに始めましょう。 病気の治療上、最優先されるのは病気本体の治療です。病気のために痛みがあった場合、治療が有効であれば、痛みも改善するのが一般的です。しかし、治療が効いて痛みがなくなるまで「痛みをがまんしなければ」ならないことはありませんし、また、「痛みの治療を早くからすると薬が効かなくなってしまう」ようなことはありません。痛みを和らげることで治療はスムーズになることも多く、日常生活を改善させます。「体調・調子が良くなる」ことは治療を続けるために明らかに「プラス」です。また、痛みががまんできないほど強くなればなるほどその痛みを取ることに難渋することさえあります。 ですから、なるべく早くから痛みを取り、生きるエネルギーを最大限に引き出すためにも痛みの治療は重要です。痛みが良くなればすぐに止められるのですから。 |
4.痛みの治療について |
痛みの治療は主に3つの要素からなります。 | |
(1) | 痛みの原因を取り除く(病気そのものに対する治療) |
(2) | 鎮痛剤を用いる治療法(薬物療法) |
(3) | その他の治療法 |
心の平静やストレスへの心の治療、お父さん・お母さんによるお子さんへのマッサージやそばにいることもまた重要な痛みへの治療です。 |
5.痛み止めの影響と副作用 |
一般に化学療法が行える状態であれば、問題がないことが通常です。 医師の指示のもと決められた量を使う分には問題がありません。体質的に使えない場合や、使っていても痛みが良くならない場合は、その他の薬が使えることが多いです。 副作用が全くない薬はありませんが、決められた用法容量で使う限りは過剰に心配する必要がないと言えるでしょう。 |
6.どんな薬を使うの? |
鎮痛剤には大きく分けて | |
(1) (2) (3) |
非オピオイド鎮痛薬 オピオイド鎮痛薬 鎮痛補助薬 |
の3種類に分類出来、その痛みの強さに応じて使い分けがされます。 |
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(1) | 非オピオイド鎮痛薬 |
いわゆる、通常の痛み止めと言われるものです。非ステロイド性鎮痛剤(NSAIDs)が主に用いられます。市販の鎮痛・解熱剤もこの仲間です。特徴としては、炎症を抑える効果があることがあげられます。一般に極量があり、それを超えて使っても有害な作用が増えるだけで、鎮痛効果は上がらないとされます。 |
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(2) | オピオイド鎮痛薬 |
医療用麻薬がこの仲間に入ります。 鎮痛作用に応じて分類されていますが、効果の他界ものが医療用麻薬とされています。弱オピオイドの一部は医療用麻薬外として用いられています。強オピオイドの特徴は、効果・投与量に上限がないこと(副作用に耐えられれば上限はない)、痛みの伝達を抑える効果と中枢性の痛みを鎮める作用を有することがあげられます。痛みがないのに使っていると、眠気や呼吸抑制など副作用が出やすくなります。増やしやすく、休めやすいのが特徴です。痛みがあるうちはいくらでも使え、痛みがなくなれば止めることが出来ます。 |
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(3) | 鎮痛補助薬 |
抗けいれん薬や抗ヒスタミン薬、抗うつ薬などは少量で(1)、(2)の鎮痛剤でとりきれない痛みを取る効果があるとされます。 |
7.麻薬への不安あれこれ |
麻薬を使い始めたり使い続けると命が短くなる? | |
かつては末期のがん患者さんに使われていたことが多く、そこから生じた誤解だと考えられます。 |
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麻薬中毒になる? 止められない? | |
痛みがある場合、医療用麻薬は鎮痛のために作用します。適正に投与される限り、精神的な依存性(いわゆる薬物中毒、沈溺)は生じません。症状に応じていつでも中止・減量が可能です。しかし、身体的依存症状(倦怠感・不安・不眠・興奮など)を生じることがあり得ますので、医師の指示通り徐々に減量する必要があります。 |
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使い続けると効かなくなる? | |
薬に慣れて効かなくなることはありません。一般に痛みが強くなってくる場合、がんの痛みが強くなっていることが考えられ、これは効かなくなったのではなく、それまでの量では不足している場合が多いのです。医療用麻薬は痛みの強さに応じていくらでも増量が可能です。 |
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麻薬を使うと眠ってしまうのでは? | |
確かに医療用麻薬を開始した時に副作用として眠気が生じることがあります。また、痛みが取れてそれまでの睡眠不足から眠くなることがあるかもしれません。これらは多くは数日で解消します。それでも眠気が続く場合は麻薬の量が多い可能性があります。その際は減量することで改善します。 |
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麻薬を使うと呼吸が止まる? | |
重大な副作用としては呼吸抑制があり、能書きにも記載がありますが、一般に痛みの治療のレベルを超えた量でなければ生じません。 |
8.子どもにあった選択を |
子どもたちにとっては薬を飲むことも苦痛となりえます。鎮痛剤には内服液・顆粒・細粒・錠剤・注射・座薬・添付薬の剤形が用意されており、体格や年齢、病状により選択出来ない薬剤もありますが、子どもたちがそれぞれにとって最も苦痛の少ない方法を選ぶことが出来ます。 |
9.すでに使用経験があるかも |
たとえば手術をするときの麻酔にはモルヒネに類似した、がん性疼痛緩和に用いられる医療用麻薬が必ずと言っていいほど用いられます。手術でお腹を切ったりする強い痛みを緩和し、苦痛を少なく安全に手術を終えるためには欠かせない薬剤です。 |
10.緩和ケアの専門医がいない場合 |
特別なスタッフや技術はあればそれに越したことはありませんが、なければ望めないものではありません。WHO方式がん性疼痛緩和薬物療法にしたがって、まず治療を始めることが出来ます。 |
11. 担当の医療スタッフに相談を |
痛みは検査などで数値化することは出来ません。お子さんの本当の痛みは本人にしかわからないものです。本人にとって最適な状態まで痛みは軽減されるべきですが、そのためには医療者と十分に話し合い、どういう状況が最良なのか、また治療に関して十分説明を受け、納得した上で治療法を選択する必要があります。もちろん薬の効果・副作用についても十分理解する必要があると考えます。痛みを取る治療はそれぞれ個人個人にあった方法を選択することが重要であり、それこそが痛みを取るための近道なのです。 |
12. おわりに |
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