手術の前に行う化学療法です。 PRETEXT-1で肝外進展のない場合はしませんが、それ以外のPRETEXT−2、3、4は基本的に数回の術前化学療法を行います。 岩ア史記(神奈川県立こども医療センター血液再生医療科医長) |
1. | 化学療法はやりたくなくても |
2. | 化学療法の前に行う検査 |
3. | プロトコールの種類 |
4. | プロトコール以外の薬 |
5. | 治療の間隔 |
6. | 投与の減量と延期についての特例 |
7. | 化学療法中の日常の注意 |
1.化学療法はやりたくなくても |
小さな子どもに「抗がん剤は使いたくない」と思う親は多いでしょう。 たしかに抗がん剤は副作用もありますし、副作用に苦しむわが子を見守らなければならないのは親としてとても辛いものです。けれども必要な化学療法をやらなければやがてがん細胞はまた勢いづくことがあります。 「子どもの命を救う」 と言うのが最優先です。まずはそのことを考えるようにしましょう。 肝芽腫はたしかに10年前20年前と比べると格段に「治る」ようになりました。けれども最初から甘い覚悟でも何とかなるほど「治る」わけではありません。化学療法がほぼ必要ないタイプの肝芽腫では手術のみで化学療法をしないこともありますが、肝芽腫全体のごくわずかです。それ以外のタイプには必要な治療です。 |
2.化学療法の前に行う検査 |
手術の前に術前化学療法という抗がん剤を使った治療をするときは、化学療法に入る前の状態を把握するために血液検査や画像検査の他にも次のような検査をします。 ・ 聴力検査 ・ 心機能検査(心エコー・心電図) ・ 腎機能検査(尿検査) ・ 骨髄検査 |
3.プロトコールの種類 |
ここではJPLT−2プロトコールの術前化学療法で行われる薬の組み合わせについて説明します。 プロトコールが変更になれば薬の組み合わせや量なども変わりますので、参考として読んで下さい。(術後化学療法でのみ行われるものについては『術後化学療法』をご覧下さい) |
|
「シスプラチン」と「THP−アドリアマイシン」という薬を組み合わせた化学療法ですが、シスプラチンの量が後述のCITAの半分です。 |
|
ローシータと同じ薬の組み合わせですが、シスプラチンの量が倍です。 肝芽腫の化学療法ではこの「シータ」が基本的位置にあります。 |
|
カルボプラチン、イフォスファミド、エトポシドという3種類の薬を組み合わせた化学療法です。 シータで充分な効果が得られなかった場合に行われます。 |
|
「キャタエル」というよりも「テース」とか「動注療法」あるいは「動注塞栓法」と言うほうが一般的です。 これは腫瘍に栄養や酸素を運んでいる動脈に抗がん剤を注入し、腫瘍に高い濃度の抗がん剤が行くようにするとともに、腫瘍細胞に栄養が行き渡らないようリピオドールという物質で血管を詰まらせる治療で、抗がん剤はカルボプラチンを動注した後にTHP−アドリアマイシンを使います。 (注・この治療は局所療法なので破裂や肝臓の外にも腫瘍がある「肝外進展」の場合にはやりません。) |
|
シスプラチン、ドキソルビシンという2種類の薬を組み合わせた化学療法です。欧州の小児肝腫瘍研究グループであるSIOPELから報告されています。 |
|
シスプラチンカルボプラチンがいずれも単独で投与されることもあります。 |
術前化学療法でプロトコールにある薬を使っても効きが良くない時には、イリノテカンやトポテカン、ソラフェニブなどの薬を使うこともあります。また、腫瘍が肝臓の外に広がっていないということが検査ではっきり判れば『生体肝移植』という方法もあります。 |
Q:プロトコールは絶対なの? |
絶対ではありません。分かりやすく言うと、「肝芽腫の治療として現在最も有効だと考えられる治療方法」ということです。ですから肝芽腫の他に重い合併症がある場合や、プロトコールでは思うように手術出来るところまで進まない場合などはプロトコールにはこだわらずに、その子にとって最善の他の治療をします。 |
5.治療の間隔 |
各治療とも投与を開始して28日間あけてから次の治療に入ります。投与にかかる日数は次のとおりです。 |
|
・ ・ ・ ・ ・ |
ローシータ → 2日間 シータ → 3日間 アイテック → 5日間 テース → 1日間 プラド → 1〜3日間 |
各プロトコールとも副作用を抑えるための点滴を投与の前後1日ずつするので、点滴しているのは各コースとも治療に2日間足した日数になります。 |
|
Q: 治療の間隔があくのはなぜ? |
|
抗がん剤を投与すると骨髄抑制が始まり、その状態が約1〜2週間続きます。その後骨髄が回復してきて、次の治療が出来るまでに身体が回復するには約3〜4週間かかります。そのため各治療と治療の間をあけるのです。ただしプロトコールによっては毎週治療がある場合もあります。使用するプロトコールごとに次の治療開始基準が決まっていますので、薬が変われば間隔が変わることもあります。 ただし規定が明文化されていない場合、次の治療を開始するにはWHO(世界保健機構)が定めた基準に従います。その基準に達しない場合には数日間治療を延期することもありますが、回復していればすぐに次の治療に入ります。 治療と治療の間隔が長すぎると、せっかく叩いたがん細胞がまた勢いづいてしまうので、むやみに治療の間をあけることはしません。 |
6.投与の減量と延期についての特例 |
次のような場合には抗がん剤の投与量を減らしたり、投与する時期を延期することがあります。 |
||
1才以下の場合は量を減らす。 月例に応じて投与量を減らします。1才で100%投与となります。 |
||
副作用が激しい場合は延期や減量、中止をすることもある。 副作用の判定は、WHOがん治療結果報告基準によってなされますが、CITA(シスプランとTHP−アドリアマイシン)の主な副作用とその対応については次のとおりです。類薬のPLADOでも同様の副作用が生じます。(他の抗がん剤の副作用や実際に治療した子にどのように出たかなどについては『抗がん剤の副作用』をご覧下さい。) |
||
骨髄抑制 ・好中球 1000/μl以上、または白血球2000/μl以上。かつ血小板7万/μl以上。 が、各コースの化学療法を始めるにあたっての必要条件です。(*プロトコールによって、またはプロトコールが変更した場合にはこの条件が変わることがあります。) この条件となるまで1週間以内の開始延期はあります。好中球回復を早める薬(G-CSF。商品名「グラン」「ノイトロジン」「ノイアップ」など)は必要に応じて投与します。 |
||
* | 好中球(こうちゅうきゅう)は白血球の中にあり、菌やウィルスに対して直接防御する役割をします。これが500以下になると感染症に罹りやすくなります。 | |
* | 血小板は血を固まらせるのに必要です。これが少ないとちょっとしたことで出血し、それがなかなか止まらなくなります。 |
|
肝障害 肝炎など他の原因を探すことが第一ですが、副作用によるものと考えられる場合はTHP−アドリアマイシンを25%減らします。 |
||
腎障害 ・尿中β2マイクログロブリン ・血清クレアチニン ・尿素窒素 を定期的に測定し、腎障害に注意します。また、クレアチニンクリアランス、糸球体ろ過率が正常の50%以下になった場合には、シスプラチンの投与を中止することもあります。 |
||
聴力障害 聴力障害を早期に発見するために定期的な聴力検査をします。 両側聴力の減少が8000Hz、40dBより大きいときは耳鼻科専門医の診察を受けるようにします。 |
7.化学療法中の日常の注意 |
Copy right©Kangashunokai All rights reserved. *本サイト内の情報・文書・イラスト等を許可なく複製・転用することを禁ず |