子どもの病気を理解し、最善の治療を受けるためには、親が病気に対する知識と理解をある程度は持っていなければなりません。「肝芽腫」という病気については、すでに述べました。 ここでは治療や資料を読む際に必要な用語と検査について記します。 (*一部病気の説明の項と重複しているものもあります。また記述内容はすべて医師のチェックを受けています。ただし説明や治療の基準値などはすべて肝芽腫の場合を想定していますので、別の小児がんには当てはまらないことがあります。ご注意下さい。) |
1. | 検査と基準値(採血・採尿) |
2. | 画像などの検査 |
3. | その他の用語 |
1.検査と基準値(採血・採尿) |
AFP値(エイ・エフ・ピーち) (英・α-fetoprotein) |
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AFP(アルファ・フェト・プロテイン)は肝芽腫の腫瘍マーカーで、採血することにより測定できます。 肝芽腫ではほぼ100%でこのAFP値が高くなるので、治療中は治療の効果を見るために、治療後も長期に渡ってこの腫瘍マーカーを測定し、再発がないかどうかを確かめます。 |
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基準値 AFP10 ng/ml 以下 | ||
手術で腫瘍が完全切除出来た場合、AFPは3〜4日で半分に減り、これを「AFPの半減期」と言います。 治療を開始してAFPの半減期が3〜4日であれば心配ありません。しかし半減期が長い場合、化学療法中であれば薬の効きが悪いということになり、術後であれば残存腫瘍細胞があるかもしれないという意味になります。 ただし術後は完全切除が出来ていても、AFPが上昇したり下がり方が悪い場合もあります。これは肝臓が再生してくる時にもAFPを出すためです。腫瘍細胞のせいなのか、肝臓の再生によるものなのかを判断するには、後述する「レクチン分画」という検査が必要です。 再発の場合ははじめAFPの上昇のみで画像ではつかまえられないことが多いので、見つかるまで繰り返し画像を撮影することになります。肺だとAFP20程度でも見つかりますが、おなかの中だと100程度でも見つからないことがあります。また、まれにAFPが正常値でも再発するケースもあります(AFP非産生型)。したがって、経過観察はAFPの測定のみではなく、CTなどの画像検査も必ず必要です。 |
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レクチン分画(れくちんぶんかく) (英・lectin affinity α-fetoprotein isoform) | ||
AFPの上昇のみで画像でつかまえられない時や、術後AFPが上昇してきた時に検査します。 *AFPほど信頼性はないので、「参考」として測定することが多いようです。 |
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基準値 L3分画 10.0% 未満 | ||
L1… 肝再生 | 肝臓が再生する時に上昇。術後AFPが上昇する場合、肝再生によるものかどうかの判断をします。 | |
L2… 奇形腫 | 奇形腫という腫瘍の場合に上昇します。 | |
L3… 肝芽腫 | 肝細胞がんなどの場合にも上昇しますが、上がらないこともあります。 |
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好 中 球(こうちゅうきゅう) (英・neutrophil) | ||
白血球の60〜70%を占め、体内に侵入する細菌をやっつけます。 好中球が500以下になると感染症を起こしやすくなるので(病院によって基準は少しずつ違うようですが)、個室管理になることが多いようです。 骨髄抑制がこれから強くなるという時期には一日でもかなり減ることがあるので、感染症には十分気をつけるようにします。 |
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化学療法をするにあたっての基準 1,000/μl以上 (JPLTプロトコールでの基準) |
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白 血 球(はっけっきゅう。略・WBC) (英・white blood cell) | ||
骨髄抑制中には低くなり、細菌感染時には高くなりますが、ウイルス感染の場合にはあまり上がらないこともあります。 「うちは今日の白血球が〇〇個で…」 と言っているお母さんの中にはよくよく聞いてみると、「白血球」ではなく、白血球の中の「好中球」の数だったということがあります。聞いた数値が白血球の数なのか、白血球の中の好中球の数なのかは主治医に確認しましょう。 |
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基準値 3,300 〜 9,000 |
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血 小 板(けっしょうばん。略:PLT) (英・platelet) | ||
血を固めて出血を抑える作用をします。血小板が5万を切るようになると、血が止まるのに時間がかかるようになり、2万を切ると臓器内出血や脳出血などを起こすことがあるので、血小板輸血が必要になります。もちろん2万を切ったら必ず輸血をするということではなく、その子の状態や骨髄の立ち上がり具合などを主治医が判断してもう少し多くても輸血することもあり、もう少し少なくなってから輸血することもあります。 大人だと輸血が必要なくらい血小板数が少なくなればだるくて動けないのですが、子どもは元気があるのでこのくらいでも小走りしたりします。小さな子どもは走らないように注意してもなかなか理解出来なかったり、言うことを聞いてくれないことが多いので、このような状態の時は走ったりふざけたりして頭をぶつけないように、極力注意してください。万が一頭をぶつけた時は、外泊時であっても医師や看護師にすぐ報告したほうがよいと思います。そのためにも「自分の子どもの血小板数が今どのくらいあるのか」は把握している必要があります。 |
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基準値 14万 〜 34万/μl *化学療法をするにあたっての基準値 10万/μl 以上 (JPLTプロトコールでの基準値) |
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ヘモグロビン(略・Hb) (英・hemoglobin) | ||
低くなると貧血。この場合は赤血球を輸血します。骨髄抑制の時ばかりでなく、腹腔内破裂を起こした時も低くなります。大体8.0を切るようになると輸血することが多いようです。 | ||
基準値 | 男 14.0 〜 16.0 くらい 女 12.0 〜 14.0 くらい |
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*検査会社によって多少数値が違うので「くらい」としました。また子どもの場合は、基準値がこれより低くなります。 |
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CRP(しーあーるぴー) (英・C-reactive protein) | ||
炎症がある時に血中で増加します。高熱が出た時に測ることが多く、通常の採血で出来、細菌感染やウイルス感染があるかどうかの判断をします。 その時点での身体の状態よりもやや遅れて反応するので、感染初期には熱の高さのわりには数値が低いといったこともあります。 同じように炎症の有無を調べられる「SAA」という検査項目もあります。SAAは炎症の状態をリアルタイムで知ることが出来ますが、まだ導入している病院は少ないようです。 |
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基準値 0.5 mg/dl 以下 |
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赤 血 球(せっけっきゅう。略・RBC) (英・red blood cell) | ||
貧血があるかどうかを調べますが、肝芽腫の治療中にこの数値が気になるようなことはあまりないと思います。 | ||
基準値 | 男 430 〜 680 くらい 女 380 〜 500 くらい |
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AST(エイエスティー。GOT) | ||
何年か前まで「GOT」とよばれていました。肝細胞障害や心筋の病気、赤血球が破壊された時に上昇します。 | ||
基準値 10 〜 40 U/lくらい |
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ALT(エイエルティー。GPT) | ||
AST(GOT)と同じく肝細胞の破壊によって上昇しますが、ASTは肝機能以外の理由でも上昇するのに対し、ALTは肝機能の障害のみで上昇します。 | ||
基準値 5 〜 45 U/l くらい |
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γ-GTP(がんま・じーてぃーぴー) | ||
アルコールの摂りすぎや脂肪肝、慢性肝炎で上昇することが知られていますが、肝芽腫の治療においては薬剤性肝障害や短銃の通貨障害の時に数値が高くなります。 | ||
基準値 60 U 以下くらい |
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尿pH(にょうピーエイチ) | ||
化学療法で使用するイフォスファミド(商品名:イフォマイド)の副作用に出血性膀胱炎があります。 これは尿pHが高くなる、つまりアルカリ性になると発症しやすくなります。これを防ぐためにイフォスファミドを投与する際は、並行して予防薬(商品名:ウロミテキサン)も投与しますが、それでもpHが高くなることがあるので、投与中は尿のpHを測ります。高くなった場合は、降圧利尿剤(商品名:ラシックスなど)を投与して出血性膀胱炎を防ぎます。 |
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pH7.5以上 … アルカリ尿 pH4.5以下 … 酸性尿 |
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マルク(骨髄穿刺) (英・bone marrow aspirasion) | ||
がんが骨髄に転移しているかどうかを調べます。 腰のところにある腸骨に穿刺して(太い注射器で長い針を使う)骨髄液を吸引します。あくまでも検査目的の場合は少量ですが、自家骨髄移植のために採取する場合は何回も刺して吸引しますし、全身麻酔をかけておこないます。 |
2.画像などの検査 |
骨シンチグラム(核医学検査) (英・bone scintigram) | |
骨に転移がないかどうかを調べるための検査です。 微量の放射性物質を体内に投与し、この薬が骨の代謝や何脳の盛んなところに集まる性質を利用して調べます。子どもの関節や、腫瘍のように盛んに増殖しているところは黒く写ります。 薬を投与して3時間くらいしてから画像を撮ります。投与する時はCVカテーテルをつけている場合でもカテーテルが放射能に汚染せれるのを防ぐため、末梢から投与します。 |
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CT (英・computed tomography) | |
X線を使うので基本的にはレントゲンと同じですが、身体の周りを360度回って撮影し、コンピュータでひとつの写真にします。 肺転移を見つけるために使えるのはCTのみですが、腹部・頭頚部であればMRIも使えます。ただ、CT・レントゲン・MRIにはそれぞれ特徴があり、「何を見たいのか」「何を調べたいのか」という目的によって使う機械が違ってくるので、MRIはCTよりもよく分かるということではありません。 大人と違い、肝芽腫では小さい子がほとんどなので、鎮静剤で眠らせて行うことが多いです。また造影剤を使用した場合、副作用として吐き気や嘔吐をする場合もあります。CTは退院後も長期に渡って行う検査ですので、放射線による被ばくを心配する方も少なくありませんが、「再発」「転移」のリスクを考えると必要な検査だと言えます。 |
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CTによる被ばく線量 CT1回 … 5 〜 10 mSV(ミリシーベルト) | |
放射線治療の場合 … CT200回分で放射線治療1回分くらい |
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MRI (英・magnetic resonance imaging) | |
CTと違い時期を使って身体の内部を撮影するため、放射線の被ばくがないのが長所です。 CTと同じく小さい子では鎮静剤で眠らせて行います。時間的にはCTよりも長くかかります。また撮影中大きな音がしているので、わりと大きな子でも怖がることがあります。 |
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エコー(超音波診断) (英・echoradiography 心エコーはechoardiogram) | |
肝芽腫の場合、エコーは最初の診断をする時と、THP-アドリアマイシンの心毒性を考えてこの薬を使う前に心臓の状態を確認するために行うことが多いです。音波を使うので身体への負担は少ないです。また超音波の検査は水分の多いところに有効だと言われています。 THP-アドリアマイシンを使っている場合、定期的に心エコーで検査しますが、その子の状態から心臓に全然問題がなさそうだという場合は退院後の検査はしないこともあります。 |
3.その他の用語 |
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