手術前後日記をつけていたので差し障りのあるところは削って載せてみたいと思います。今から読み返して見ると、いろいろ思い出して懐かしいです。
7/23
明日の透視のため、検査食を開始する。思ったより空腹感は無い。それよりも明日の下痢のほうが心配。
N院長に手術をする場合の病院について相談する。出血で見つかるのは大事に成ることは少ないとの言葉に少し安心する。
○大腸の検査をしたことのある人はご存じだと思いますが、前日から食事の制限とともに大量の下剤を飲まなければなりません。自宅でこれをやると病院までの通勤の間に頻回にトイレに行かなければならなくなって大変ですので、検査前日は病院に泊まりました。
7/24
0時より緩下剤による水様便、1時間毎、寝不足のまま午前中外来。終了後この夏一番の猛暑の中を病院に向う。
注腸では直腸の後壁三分の一周ぐらいに陰影欠損あり、見込みとしては前方切除で行けそうとのこと。30日に内視鏡で生検予定。
帰りに焼き鳥、握り飯等を買い込み、ビールを飲む、やはり普通の食事は良い。
7/25
午前中外来。新患1を含む22、午後2時まで。新患の神経芽腫に入院を勧めたところ、母親が付き添いのできる病院への入院を希望したため、種々の病院に問い合わせを行う。これで1時間は余計にかかったと思う。
午後3時過ぎから暴風雨、院内停電し大混乱、危機に脆い病院である。
帰宅時停電による東海道線のダイヤの乱れと、江ノ島での花火大会への人出が重なり大船駅で立ち往生。
7/26
昨晩は夜半まで暑さが続き寝不足気味。午前中は半分眠りながら前日の内科科長会の議事録を書く。午後は回診とtumor board (*小児科・外科・放射線科・病理科等の関係各科が集まり固形腫瘍の治療方針を決定する会議) 。
血液腫瘍グループ全員に直腸に腫瘍があり、近いうちに手術のため入院することを伝える。
7/27
入院病院を決める。月曜日に取り敢えず受診、週末には入院の予定。
7/28
午後聖路加国際病院でJapan Pediatric Lymphoma Study Group (*日本小児悪性リンパ腫研究グループ)の会議、なかなか纏まらず。最後になってTCCSG (*東京小児癌研究グループ)がT protocol を、CCLSG (*小児癌白血病研究グループ)がB
protocol を考えることで同意。次回8月19日名古屋で、事情を話しT先生に今後をお願いする。話し合いの途中、統一プロトコールが走り出すころ自分は生きているだろうかという考えに突然襲われる。
○この前の年から小児の悪性リンパ腫治療プロトコールを全国統一しようと頤右話し合いが進んでおり、この日その話し合いが行われました。統一プロトコールは来年春には開始できそうです。
7/29
午後参議院議員選挙、床屋。気分はやや動揺が収まったか。
7/30
8月1日の入院が決まる。2日には内視鏡的生検、手術日は未定。
ロスの後藤から神経芽腫の分化誘導の新しい薬剤について共同研究の誘いあり。ただ現状では未認可薬の使用は厳しいか。速く病を退治して現役でやりたいものだ。
7/31
午前中外来17人、12時まで。
午後CT、エコー、転移はなさそう。大体知らせなければいけないところに全部通知を終わった。
夕方脳外科に小脳腫瘍、整形外科に上腕骨の腫瘍入院。
8/1
9時半入院する。退屈。このところの疲れか熟睡する。
8/2
大腸ファイバー、朝から下剤を大ジョッキ2杯分飲む。開始が予定より2時間遅れる。看護師に病院の中には別の時間が流れているといわれ納得する。
ファイバーがなかなか進行せず、結局横行結腸どまり。腫瘍の生検を行い終了、その後外泊。
○「病院の中には別の時間が流れている」という言葉には同感する患者さんが多いのではないでしょうか。
8/3
終日自宅で「神経芽腫の経過観察」についての依頼原稿を書く。少し足り無い資料があり、あす病院でカルテを調べることにする。
8/4
資料を取りに病院へ。病棟を回ってきたが入院を知っていたのは2東のみ。
『上善如水』を買って帰る。かっては上手い酒だと思ったが、今飲むとこくもうまみも無く本当に水だ。
8/5
『小児外科』の原稿完成、ほっとする。
午後は「亡き王子のためのハバーナ」を読んで過ごす。今日から1ヶ月は禁酒を余儀なくされと思うと寂しい。
○「亡き王子のためのハバーナ」というのは、革命前のキューバを舞台にし、主人公の女性遍歴がひたすら書かれている小説です。題名はもちろんラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」のパロディです。
8/6
外泊終わり帰院、術前の注意いろいろ。病状手術の詳しい話は明日、家族と。24時間クレアチニンクリアランスのための蓄尿開始。「亡き王子のためのハバーナ」読み進む。
8/7
麻酔科受診および術前説明。術後は蒟蒻、しらたきは禁忌といわれる。鍋物やおでんが寂しくなりそう。交感神経温存ということで少し安心、あとは運任せだ。
(*交感神経を切られると、排尿、排便、勃起、射精等の機能が障害されるからです。)
「亡き王子のためのハバーナ」かなり進む。手術までに読了できそう。
8/8
朝から低残渣食、10時過ぎ剃毛。
「亡き王子のためのハバーナ」読了、「日の名残」読み始める。
夕方空腹感強い、一鳥の焼き鳥と日本酒が目に浮かぶ。
○一鳥というのは上大岡の焼鳥屋です。主人がサザンオールスターズのファンで、店ではずっとサザンの曲がかかっています。
8/9
この後も世界はこれまでと同じように自分の目に映るのだろうか。
○手術の前日です。随分深刻になっていますが、今から振り返ればこの手術など、その後延々と続く闘病生活のほんの前菜に過ぎなかったと思います。
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